「島に観光客は必要だけど、正直怖い」

コロナの夏 冷える地方(1)

新潟県の粟島は7月、東京都以外の観光客の来島自粛を解除したものの、再び要請対象地域を拡大している

新潟県の粟島は7月、東京都以外の観光客の来島自粛を解除したものの、再び要請対象地域を拡大している

「石垣島で新型コロナウイルスが広がれば、手に負えなくなる」――。4日、沖縄県石垣市長の中山義隆は県の意向に反し、クラスター(感染者集団)が発生したキャバクラの店名公表に踏み切った。「接触が疑われる人を早期に医療機関へ受診させることが、感染拡大防止にどうしても必要」。熟慮を重ねた上での決断だった。

中山は数日前から第一義的に公表を担う県側に店名を含めて発表するよう働きかけていた。しかし県は「店の同意が得られない。同意なしでは今後の情報提供で協力が得られなくなる」との立場を崩さない。協議が平行線をたどる中、自ら県幹部に電話で直談判しても事態は動かなかった。

「対立」の背景にあったのは、互いの危機意識の差だ。島内の感染症病床は9床のみ。一方で感染者はこの時点で同店の従業員や客のほか、別のキャバクラでも判明。夜の街での感染拡大が疑われ始めていた。

店名公表なしでは「濃厚接触」した客が、自覚のないまま重症化リスクの高い高齢者らに感染を広げていくリスクを否定できない。中山は語気を強めた。「沖縄本島なら患者が増えても複数の病院で受け入れ先を調整できるかもしれないが、離島は違う」

人が居住する島の数は日本に400島あまり。多くで医療体制は極めて脆弱だ。鹿児島県最南端の与論島(与論町)も、今夏、新型コロナの感染拡大に揺れた。

「来るべきものが来た。どうやって島を守るべきか」。唯一の総合病院「与論徳洲会病院」の院長、高杉香志也が初の感染者を確認したのは7月21日。飲食店でクラスターが発生したとみられ、感染者は50人を超えた。島内に感染症指定医療機関はない。感染者は自衛隊のヘリコプターなどで本土や奄美大島(同県奄美市)に搬送された。

同病院の常駐医師は6人。うち2人は濃厚接触者として自宅待機を余儀なくされた。「医療従事者の絶対的な数が少ない与論では、長期戦は厳しい」。離島ならではの危機感を背景に、封じ込めに向けた動きは迅速だった。

23日、奄美大島の診療所の医師が自主的に応援に駆けつけたほか、25日にはグループ病院から派遣された医師も協力、ドライブスルー外来の開設にこぎ着けた。8月上旬、全島民の5分の1に当たる約1千人のPCR検査を終了。「第1波」は収束へと向かっている。

ただ、感染拡大が与論島に与えた打撃は、いまだ終わりが見えない。町は7月24日、やむなく「不要不急の来島自粛」を要請。島を支える観光業は「壊滅的」な状態に陥った。ヨロン島観光協会事務局長の町岡安博は「当面、深刻な影響が続くことを覚悟している」と声を落とす。

「少しでも観光客を入れなければ島の経済が成り立たなくなってしまう」。日本海に浮かぶ人口340人の粟島(新潟県粟島浦村)の村長、本保建男は産業維持と感染防止の両立に思い悩む。観光シーズンが5~10月と短いこともあり、7月16日、東京都以外の来島自粛要請を解除したものの、感染はその後、再び全国へと広がった。

住民の半数近くが65歳以上。医師も常駐していない。感染者はこれまで確認されていないが、ひとたび出れば重症化リスクも高い。港近くで売店を営む本保ハルイが不安な表情を浮かべる。「観光客は必要だけど、正直なところ怖いよ」

民宿「弥三郎」の主人、脇川利浩は受け入れ客数を例年の3分の1以下の2組10人程度に絞った。首都圏や感染拡大地域からの客は全て断っている。一緒に暮らす両親はともに80代。新型コロナへの警戒感は強い。それでも「収入ゼロはきつい。少しでも開けないと」と、苦しい胸の内を明かす。

今季、全29の宿泊施設のうち5施設が営業休止を決めた。客数を制限する施設も多い。

村は8月8日、「10万人当たりの新規感染者数が2.5人以上」の都道府県在住者に対し、来島自粛を要請するとの基準を改めて設けた。23日時点で対象は31都府県まで増えている。(敬称略)

観光を成長産業と位置づけてきた地方。感染再拡大が繁忙期の夏を冷え込ませている。「感染防止」と「経済」の両立。相反しかねない課題を抱えた現場を追う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です