「働きバエ」農家支える 授粉バチ不足の救世主?

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イチゴなどの果実の栽培に欠かせない授粉に、ハエを利用する農家が増えている。その役をこなしてきたミツバチが世界的に減少しており、新たな選択肢として注目を集める。人を刺さず、気温の影響も受けにくいが、難点は「不衛生では」というイメージだ。そんな先入観を払拭し、定着するか。(嶋崎雄太)

岡山市の住宅街にある倉庫の一角で、5台の「生物環境調節装置」が鈍い音を発し続ける。内部の温度や照明は一定に保たれ、虫かごの中で緑色に輝くハエが手脚をこする。「ハエはハエでも、清潔なハエなんです」。岡山大学発の医学ベンチャー、ジャパンマゴットカンパニーの佐藤卓也さん(59)が強調する。

育てているのは「ヒロズキンバエ」。密閉された装置内は最も活動的になる秋の日照時間に設定し、牛肉や鶏肉、砂糖水を与えて卵を産ませる。それを別の場所でさなぎまで成長させる。さなぎで出荷し、農家が施設内で羽化させる。

もともと糖尿病で壊死(えし)した部分を食べさせて足の切断を防ぐ治療法のため、幼虫を生産していた。ハエの新たな使い道として目を向けたのが農業だ。

このハエはイチゴやマンゴー、ブルーベリーなどの果物や野菜に「訪花」して蜜を食べながら花粉を媒介する。ハチ(ビー)のような働きをするハエ(フライ)で「ビーフライ」と名付けた。出荷を始めた当初の2011年度に4万匹ほどだった生産量は、19年度に1200万匹まで拡大。イチゴ農家を中心に500農家が採用する。

「おかげでいいイチゴを出荷できた」。愛知県豊田市のイチゴ農家、成瀬太貴さん(24)は効果を実感する。19年秋から導入し、今季も4月までの間、ハウス内に絶えず2千匹ほどのハエが飛び交った。「ハチのように、刺されて痛い思いをすることもない」と笑う。

ビーフライに注目が集まる背景には深刻なミツバチ不足がある。1990年代以降、世界各地でミツバチの大量死が確認され、07年までに北半球に生息する個体の4分の1ほどが消失したとされる。幼虫の時にダニに寄生され成虫になれないという説や農薬の影響などが指摘されるが、原因は特定できていない。

ミツバチに比べて利点もある。ミツバチは暑い日や寒い日、曇りの日は動きが鈍り、巣箱にこもってしまうことがある。一方のビーフライは気温10~35度の範囲で活動でき、天候にも左右されないという。

整った円すい形のイチゴを作るには、蜜を吸いに来た虫が花の上を歩き回り、中心の雌しべに満遍なく花粉をつける必要がある。成瀬さんの農家ではミツバチを使っていた1年前の冬、形の悪い「奇形果」の実が目立ったが、ビーフライを入れたところ改善。今季のイチゴの9割以上は、品質の最も高い「秀品」だったという。

ビーフライを農家に販売する中野剛さん(48)は「農家の救世主になる」と期待を膨らませる。ただ、大腸菌などの病原菌を媒介するなどハエに対する「不衛生」のイメージが根強いことは懸念材料。中野さんらはビーフライを妖精に見立てたマスコットキャラクターを作るなど、農家の抵抗感の払拭に努める。

食べ物を扱うだけに、ハードルは高い。「ハエを使って作っていると知れば消費者はどう思うか。清潔で害はないが、先入観を拭い去るのはなかなか難しい」(中野さん)。働きバチならぬ「働きバエ」が至る所のハウス内を飛び、日本農業の縁の下の力持ちとなる日は来るだろうか。◆ミツバチ、台風やダニ発生で入手難しく
 農林水産省によると、2019年に全国で飼育されているミツバチの群れの数(蜂群数)は、約21万5千群だった。ここ数年は横ばいの状況が続く。ただ、このうち多くは蜂蜜を採るための「採蜜用」。農作物の授粉に使う「花粉交配用」のミツバチの状況についてはデータがなく、正確には分からないのが実情だ。
 ある養蜂業者は「ハチミツブームの中で趣味としてミツバチを飼う人が増える一方、授粉用のミツバチを提供する業者は後継者不足に直面している」と指摘。「農家1世帯当たりに納めるハチの数を少なくするなどして何とか間に合わせているが、年を追うごとに状況は悪くなっている」と訴える。
 特に19年は、台風15号や19号でミツバチの巣箱が流される被害が各地で発生。ダニの発生も重なり「希望通りの数のハチが手に入らない農家が出ている」(日本養蜂協会)。農水省は「自治体や養蜂業者と連携して需給の状況を把握し、不足が起きないよう調整したい」としている。

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