窮地のローカル静岡の天浜線、生き残りへファンの輪

80周年記念事業として、国鉄二俣線時代の「キハ20」の色に塗装した車両が走る

80周年記念事業として、国鉄二俣線時代の「キハ20」の色に塗装した車両が走る

静岡県内を走るローカル鉄道「天竜浜名湖鉄道」(浜松市)。国鉄二俣線の全線開通から80周年の記念に販売するグッズが飛ぶように売れている。新型コロナウイルス感染拡大の影響で窮地に陥るなか、地域の住民や全国の鉄道ファンがグッズの購入を通じて救いの手を差し伸べている。

天浜線全線が乗り放題になる純金製のフリー切符は既に3枚の注文が入っている。

天浜線全線が乗り放題になる純金製のフリー切符は既に3枚の注文が入っている。

「天浜線に恩返しをしたい」。地元の物流会社、浜名梱包輸送(同市)会長の鈴木鉄男さんは今月上旬、80万円という純金製のフリー切符の購入を申し出た。同切符は天浜線の80周年を記念する事業の一環で、1日に申し込みの受け付けを始めたばかりだった。

天浜線の沿線には鈴木さんの収集品を収めた美術館がある。天浜線による集客で恩恵を受けているといい、「ほんの気持ち」(鈴木さん)で購入を思い立った。

6月1日に80周年を迎えた天浜線。同鉄道を支えてきた地域の住民や鉄道ファンとともに迎える80周年はもっと明るい年となるはずだった。

車窓から日本の原風景を味わえ、全国に熱烈なファンも多い。地域にゆかりのある大河ドラマ「おんな城主 直虎」の放映を追い風に利用客を伸ばし、2018年3月期の輸送人員は162万人と過去10年で最高を記録するまでになった。

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直虎による盛り上がりは一巡しているが、仮想アイドルなどと手を組んだラッピング列車の運行と、SNS(交流サイト)による情報発信を両輪に新たなファンの掘り起こしを進めてきた。「旅客収入はここ数年で直虎放映時を抜いていく手応えも感じていた」。天浜線の長谷川寛彦社長は期待を込めていた。

新型コロナウイルス感染拡大はそんな好調ぶりに影を落とす。4~6月の旅客収入は前年同期より5割も減った。落ち込みは徐々に緩やかになりつつあるが、感染の第2波、第3波の懸念もあり不透明感は強い。80周年を祝う行事も軒並み延期に追い込まれた。

逆風を受けるなか、インターネットなどで販売できる80周年の記念グッズの売れ行きは目を見張るものがある。

天浜線全線が乗り放題となる純金製のフリー切符は、有効期間別に4種類(価格は15万~80万円)を用意したが、22日時点で鈴木さんを含めて既に3枚を受注。同時に売り出した純金製の記念カード(同3万3000円)についても約50枚の注文を受けている。

記念入場券や、80周年を記念して二俣線時代の「キハ20」の色に塗装した車両のピンバッチやキーホルダー、ポスターなど限定品も相次ぎ発売したが、ほとんどが完売する人気ぶりだ。

記念グッズの販売はSNSによる情報発信も後押ししている。三セク鉄道の苦しい台所事情を踏まえ、費用をかけず宣伝効果をあげようと積極的に活用。18年に静岡県職員から社長に就いた長谷川社長は自ら率先して使ってきている。

「クオリティーが高い。これは即日完売するわ」。SNS上でのグッズに対する評価だ。長谷川社長は「非常時に社員がより強い思いを発揮して高品質なグッズをつくり上げている。そんな思いがSNSで沿線地域や全国のファンに伝わっている」と言う。SNSで新たなファンの輪が広がっていると言える。

天浜線のグッズはSNS上でも評判

天浜線のグッズはSNS上でも評判

天浜線では、20年3月期の営業収益が前の期比1%減の4億6000万円となった。そのうち記念切符・入場券などを含めたグッズ売り上げは1000万円程度だ。私鉄大手のように不動産事業を手掛ける資金的な余力がないなか、グッズ販売は収益源を多様化する貴重な手段となる。同社は強化を急ぐ構えだ。

足元では第三セクター鉄道等協議会(東京・墨田)が天浜線を含めた第三セクター鉄道40社と共同で展開する「鉄印帳」に期待をかける。

鉄印帳は寺社巡りで印を集める御朱印帳にちなんだ取り組みで、各社オリジナルの「鉄印」を集めて全国各地のローカル鉄道を巡ってもらう。初版5000部を10日に各社で売り出したが、相次ぎ完売している。

天浜線では長谷川社長の直筆による鉄印を用意している。社長自らが筆を執る姿がSNS上で拡散している。鉄印を集めに来た多くのファンが天浜線に乗り、グッズも買い込んでくれる。コロナが落ち着いた後には大きな波及効果を生むと長谷川社長は期待する。

「乗り鉄」も「撮り鉄」も困難にしたコロナ時代。ファンと新たなつながりを築き上げ、生き残りへの軌道を確保できるか。天浜線の新たな挑戦が走り出している。

(浜松支局長 新沼大氏)

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