種苗法改正、農家からも出る「賛成」の声

千葉県での田植え風景

千葉県での田植え風景

法律を変えることに賛成している人も反対している人も「農業のため」と思っている。この点がいまの国会に提出されている種苗法改正案の問題を難しくした。

発端の一つは、2年前にさかのぼる。平昌五輪で、カーリング女子の日本代表が「もぐもぐタイム」でイチゴをほおばった。楽しそうなその様子に多くの人が和んだが、しばらくすると別の反応が浮上した。「あれって、もともと日本の品種ではないのか」

これまで日本からイチゴやブドウ、かんきつ類など様々な品種が海外に流出してきた。放っておけば、市場縮小に直面する国内農業をてこ入れするための輸出戦略に支障が出かねない。さらには安い値段で逆輸入されれば、国内市場に影響が出る恐れもある。

農林水産省はこうした事態に歯止めをかけるため、種苗メーカーや研究機関などが海外で品種登録する経費を補助してきた。今回の法改正は農産物の知的財産の保護を強めることで、これを補完するのが目的だ。

新しい制度ができれば、種苗メーカーや研究機関などが農水省に品種を登録する際、種苗の海外への輸出を認めないと定めることができるようになる。これに違反した業者は刑事罰や損害賠償の対象にもなる。

農業生産者はこの制度改正をどう受け止めているのか。有力農業法人、野菜くらぶ(群馬県昭和村)を率いる沢浦彰治氏は「日本の農業にとって絶対に必要な法改正だ」と話す。沢浦氏が強調するのは、新しい品種の研究開発を応援することの大切さだ。

「野菜くらぶ」を率いる沢浦彰治氏は「日本の農業にとって絶対に必要な法改正だ」と話す(写真は同法人の集荷・出荷施設)

「野菜くらぶ」を率いる沢浦彰治氏は「日本の農業にとって絶対に必要な法改正だ」と話す(写真は同法人の集荷・出荷施設)

流出防止だけが論点ではない。毎年のように起きる天候不順や気候変動に対応し、新たな病害虫を防ぐには絶え間ない品種改良が不可欠。そのためには品種を開発した人がきちんと対価を得ることができるよう知財を守る必要があると沢浦氏は訴える。

ではなぜごく当たり前にみえる法案に一部から反対の声が出たのか。答えは知財保護の一環として、農家が作物から種を取る自家増殖にも制限がかかるようになるからだ。登録品種を自家増殖しようとすると、今後は開発者の許諾を得ることが必要になる。

その結果、農家が毎年、種を買わなければならなくなったり、種苗会社などに自家増殖の許諾料を払う必要が出たりすることで、農家の経営が圧迫されるのではないか。法改正に反対する人は主にそう心配する。

実際はそうした予想はほぼ杞憂(きゆう)に等しいだろう。許諾が必要になるのは、誰が開発したのかはっきりしている登録品種に限られるからだ。地域の伝統的な作物を含む一般品種は規制の対象外で、しかも流通している品種の大半を占める。一般品種が新たに登録されることもない。

この点についても現場の声を聞いてみることが必要だろう。横田農場(茨城県龍ケ崎市)を運営する横田修一氏は農協などから買ったコメの種を水田の一部で育てて増やし、翌年のコメの栽培に使っている。

栽培している品種は11あり、中には登録品種も含まれる。種苗法が改正されれば自家増殖が制限されるが、横田氏は「問題ない。必要なら許諾料を払えばいい」と話す。許諾料が高額になるとは思っていないからだ。そして、引き続き種どりが自由な一般品種もたくさんある。

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そして沢浦氏と同様、横田氏も「種苗法の改正は必要」と指摘する。理由はやはり新品種の開発に期待しているからだ。

横田農場は160ヘクタールあり、平均で約3ヘクタールの日本の農家の中では「超」がつく大規模経営だ。では小規模農家はどう考えているのか。種をほとんど買わず、自家増殖をして野菜を栽培している農家に聞いてみると、やはり「心配していない」という。

この農家が育てているのは伝統品種で、改正法が成立しても自家増殖が認められることをわかっているからだ。ただ彼は、こうもつけ加えた。「野菜を買ってくれている消費者から『種苗法が改正になっても本当に大丈夫なの?』と心配されてます」

種苗法改正をめぐる議論のポイントがここにある。大規模農場を経営する農家の多くは気候変動などに対応するために新品種を必要とし、農産物の知財を守るべきだと感じている。一方、昔ながらの品種を守る小規模な農家の多くもそれほど心配する必要はないとわかっている。農業団体からも、今回の制度改定に真っ向から反対する声は上がっていない。

でも本当に大丈夫なのだろうか――。食の安全や農業に関心のある人々が不安に感じ、法改正に反対している。SNS(交流サイト)などを通じ、その声は一定の数に達し、先行きは不透明になっている。

農業の国際競争力を高めるためにも、各産地の魅力を高めるためにも、優れた品種は大きな力になる。じつは種苗メーカーや研究機関だけでなく、各地の農家も品種改良に取り組んでいる。登録品種を別の品種とかけ合わせ、より良い品種を作ろうとするのも自由。それを支えるのが知財の尊重だ。

焦点になることがそれほど多くない農業にとって、種苗法に注目が集まったことは好機とも言えるだろう。日本の農業がどんな課題を抱え、その発展には何が求められるのか。大切なのは丁寧な説明を通して不安を払拭し、現場の混乱を回避することだ。建設的な議論に期待したい。

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