捨てられる花を救え 産地直送をかなえたオンライン

出社ができない、取引先に会えない。お客を呼べない――。新型コロナウイルスの感染拡大はビジネスの現場を大きく変えた。一方で、オンラインを駆使することで事業領域を広げ、危機をチャンスにする動きも広がる。花のスペシャリストは生産者らとオンラインで直接つながるビジネスで危機を克服しようとしている。

■「D2C」決断させた映像

「D2C」事業に再挑戦する井上英明パーク・コーポレーション社長

「D2C」事業に再挑戦する井上英明パーク・コーポレーション社長

花を愛する者にとって、胸がしめつけられた。3月、世界2位の花き市場であるオランダから届いたニュース映像。何百万本の花を生産者たちがやむを得ず市場近くに捨てていく。「青山フラワーマーケット」を世界で展開するパーク・コーポレーションの井上英明社長は苦々しい面持ちで見ていた。

コロナ禍で花の需要も世界で急減し、日本も例外ではなかった。「花が売れない。このままでは赤字だ」。取引のある国内の生産者からの声は井上さんの元にも届いた。卒業式や送別会といった花を贈呈する「定番行事」が相次ぎ中止に。4月に入り緊急事態宣言が発令されると、青山フラワーマーケットも休業することになった。

生産者のためにも、花を売りたい。でも店を開けられない。「では、生産者から直接、消費者に花を届けられたらどうか」。こう考えたが、苦い経験が頭をよぎった。

オランダ・ホンセラースデイクの花き卸売市場近くに廃棄された花(3月、ロイター)

オランダ・ホンセラースデイクの花き卸売市場近くに廃棄された花(3月、ロイター)

■「面倒」「農協を通さないと」

7年前、「D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)」と呼ぶオンラインビジネスに挑んだ。自社の電子商取引(EC)サイトで消費者に直接売るビジネスモデルで、化粧品などを中心に世界で広まり始めていた。市場などを通さないことで、価格を安く、さらに鮮度を高く消費者に届けられる。奇麗なパッケージで花を届けられたら、きっと消費者も喜んでくれる。勝算はあった。

意気揚々と親交の深い生産者に持ちかけたが、「面倒だな」とばっさり。「市場に卸す箱と組み立て方も梱包も違ってややこしい」「農協を通さないと関係が悪くなるかもしれない」。他の生産者からも賛同がなく、オンラインの先駆的な取り組みは志半ばで終わった。

「もう一度やる」。コロナ危機が井上さんを突き動かした。自らオンラインショップの担当者や仕入れの担当者などを集め「産地直送」プロジェクトチームを結成したのは、緊急事態宣言が出た3日後の4月10日だった。

生産者ファーストにこだわった。7年前の根本的な失敗理由は、産地にあらゆる作業を押しつけたことだった。毎日市場に卸すために何百箱分も花を切り出し、パッケージングする作業がある生産者に、追加で「産地直送用」に特別な作業を依頼することは売り上げが増える以上の負担を強いることになる。いつも市場に卸すのと同じ梱包で、花も個人向けを意識せずに30本や50本まとめて送ってしまえば、作業は楽になる。

■追加分もすぐに売り切れ

4月20日、井上さんの産地直送リベンジが始まった。今回の急造「産地直送」に対応できる設備をもつ3つの生産地の協力をえて、合計で160点分をオンラインショップで売り出した。通常の店頭で花を買うより安く、競りなどを通す必要がないため、消費者の手元に花が届く日数も3日ほど短縮できる。

すぐに売り切れた。井上さんは慌てて生産者に連絡し、追加で200点を用意したが、売り切れの表示がなぜか続く。「さっき追加したのにまだ反映されてないぞ」。システム担当者に電話をかけると、「社長、追加分も一瞬で売り切れたんです」と取り乱したような声で社員から返答があった。

■生産者「心の支えに」

ガーベラとオリーブを生産するアドアーフローカの山本勝重さん、ゆかりさん夫婦

ガーベラとオリーブを生産するアドアーフローカの山本勝重さん、ゆかりさん夫婦

「自分たちは不要なものを育てているのでは」。3月、静岡県牧之原市でガーベラなどを育てているアドアーフローカの山本ゆかりさんも悩んでいた。コロナ禍に市場に出しても思ったような値がつかない花を見て心を痛めていた。

日本列島に多くの被害を及ぼした2019年の台風19号の影響を受け、「今年の春先こそは」と意気込んでいたが、コロナ危機は経済的にも精神的にも大きなダメージを与えた。その中で井上さんから産地直送プロジェクトの声がかかった。「心の支えになった」と振り返る。

アドアーフローカでは産直サービスの花にSNS(交流サイト)上で花の写真の投稿を促すためのハッシュタグなどをつける。「お客さんの感想を見られるのは新鮮」という。市場に卸した花が売れないリスクを回避するためにも、産直サービスのようなオンラインを組み合わせる形式をこれからも続ける。

井上社長は「オンラインの活用はまだまだこれから」とリアルとの二刀流に挑む

井上社長は「オンラインの活用はまだまだこれから」とリアルとの二刀流に挑む

井上さんもオンラインならではの仕掛けを続ける。動画で花の開く様子を掲載することで消費者が飾る姿をイメージできるするなど、オンラインならではの仕掛けを続ける計画だ。オンラインに特化したプロジェクトチームのメンバーを集めており、「花は生き物で、変化を楽しむもの。その魅力を伝えるためのオンラインの活用はまだまだこれからだ」(井上さん)。リアルとオンラインの二刀流で危機を乗り越える。

=つづく

(荒沢涼輔氏)

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