インバウンドに頼らない 観光を見直すチャンス 学び×これからの観光(4) 星野リゾートの星野佳路代表

新型コロナウイルスの感染拡大で、政府による緊急事態宣言が発令された4月以降、観光業は厳しい状況に置かれています。今回はコロナ禍における宿泊施設のあり方について考えてみます。

■観光を「悪」としないために

私は星野リゾートの代表に就任してからの30年近くの間に、バブル崩壊や東日本大震災など、さまざまなことに直面しました。私の経験からいうと、現在の需給の状況はバブル崩壊後とよく似ています。バブル期はホテルの供給が大幅に増えたことで、バブル崩壊後に需要が追いつかない状況になりました。今は供給が急に増えたわけではありませんが、需要が急激に減ってしまいました。

バブル崩壊後とは大きな違いもあります。「失われた20年」と言われるように、日本ではバブル崩壊後に不況が長い間続きました。一方で新型コロナは、治療薬やワクチンができるという明確な出口があり、早ければ1年半程度でその出口が見えてきます。

私は3月中旬ごろから「今後1年半をどう乗り切るか」というメッセージを社員に向けて発信してきました。星野リゾートはフラットな組織文化が強みですが、こういった非常時は別です。正しいか正しくないかは別として、まずは会社がどう考え、どう進もうとしているのかということをトップが発信することが大事です。自粛ムードが漂うなかで、「観光が『悪』としてとらえられてしまうのではないか」と不安に思う社員もいましたが、私はそうは思いません。こういう時期だからこそ観光が果たせる役割は必ずあります。

■まず重視すべきは安心安全

星野リゾートのカフェでは商品提供前にアルコール消毒を徹底する

星野リゾートのカフェでは商品提供前にアルコール消毒を徹底する

コロナ禍において宿泊施設は大きく変わる必要がでてきます。まずは密接・密集・密閉の「3密」の回避を徹底することが最優先です。接客などのサービスでこれまで重視していたことはいったん忘れて、安心安全の旅を提供することが大事です。

また、しばらくは周辺地域を旅する「マイクロツーリズム」が中心になることを考えると、提供するサービスも変えていく必要があるかもしれません。例えば食事です。地方ではこれまで、東京や海外から来る顧客のために、地元の食材を使ったその土地らしい食事を出す宿泊施設も多かったでしょう。しかし、周辺地域や地元に住むお客さんが増えると、求められる食材は地元のものではなくて、地元では食べられないものに変わります。「3密回避」を徹底しながら、そういった需要の変化に対応することが大事です。

すでに世界に先駆けて新型コロナの拡散防止に成功した台湾では、マイクロツーリズムが始まっています。星野リゾートが台湾で運営している「星のやグーグァン」の客室稼働率は、台湾のなかの需要だけで2019年の同時期に比べても増えていて、台湾の人たちが台湾の観光を見直す機会になっていると感じます。

海外旅行客が国内で旅をするようになると日本の観光市場は広がる可能性がある(写真は成田空港、2018年撮影)

海外旅行客が国内で旅をするようになると日本の観光市場は広がる可能性がある(写真は成田空港、2018年撮影)

同じように日本でも、海外旅行に行っていた約1600万人が国内を旅行するようになれば、日本の観光市場は広がります。それをどれだけ復活させられるかは、業界全体で徹底した感染拡大防止策を実施し、国内旅行は安心安全だということをアピールできるかにかかっています。

■宿泊特化型は供給過剰続く

残念ながら、コロナ禍において宿泊業の倒産も出てきています。特に厳しいのは、ビジネスホテルなどサービスを限定した「宿泊特化型」のホテルです。インバウンド(訪日外国人)が増えるなかで、ホテルは供給過剰から需要過多に移り変わり、そのなかで差異化が難しい宿泊特化型のホテルが大幅に増えてきました。こういう宿泊特化型のホテルは、新型コロナの収束後も供給過剰が続きます。

インバウンドに特化しすぎていたホテルも同様です。星野リゾートでは、各施設でインバウンド比率が高くなりすぎると警告を出しています。ホテルや温泉旅館の集客では、インバウンドの比率が高すぎても低すぎてもだめで、ある程度の分散が必要です。どこか1つの国・地域からの集客に集中しているというのも危険です。

このような問題は、新型コロナの感染拡大がなくても起こっていた問題です。宿泊施設にとって重要なことは、長期的かつ持続可能な競争力を付けていくこと。現在の状況は、これからの宿泊施設のあり方を考えるきっかけでもあります。

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