長崎市、人口減抑制の好機

人口の社会減が全国の市区町村で最悪の長崎市で、急激な人口流出に歯止めがかかる可能性が出てきた。IT(情報技術)を中心に地域の課題解決に注目した企業の研究拠点や人材育成体制が整いつつあるほか、サッカースタジアムを中心とした複合施設の計画も進む。造船や水産業と共に衰退してきた街の構造転換が注目されている。

「日本の西の果てにある長崎で地方創生をなし遂げたい」。10月18日、横浜港に停泊した豪華客船で開催したパーティーで、ジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市)の高田旭人社長は力強く言った。

アリーナ8000人規模

同社は長崎市でサッカースタジアムを軸にした複合施設を建設する予定だ。三菱重工業の工場跡地で、敷地面積は7万平方メートル。傘下のサッカーJ2、V・ファーレン長崎の本拠地とするほか、8000人規模のアリーナや400室のホテル、オフィスや商業施設なども備える。

建設費は500億~600億円。高田社長は「サッカーの試合だけでなく、福岡市でも呼べないアーティストも呼んで、地域活性化につなげたい」と強調する。同社は6月、地域活性化に向けてリージョナルクリエーション長崎(長崎県佐世保市)を設立した。高田社長は「長崎市はアクセス面で不利なのは事実。ただ、観光や1次産業を見れば魅力にあふれている。実績を上げれば他の地域にも展開できる」と強調する。

「最新のテクノロジーを活用して物流を始めとした課題解決につなげる商品やサービスを開発する拠点にしたい」。物流大手セイノーホールディングスのIT部門を担うセイノー情報サービス(岐阜県大垣市)の鳥居保徳社長は、県や長崎市との立地協定調印式後の記者会見で強調した。研究開発拠点を市内に開設し、5年後に20人体制をめざす。

長崎市内では2月に立地協定に調印した富士フイルムをはじめ、10月にはデンソー系のデンソーウェーブ(愛知県阿久比町)など、今年に入って6社が研究開発拠点の開設を決めた。順調にいけば、高度人材の雇用の場が5年以内に200人以上生まれる。

背景には長崎県産業振興財団を中心とした立地企業への手厚いサポートがある。財団は18年度から立地企業を対象とした採用担当専任職員を1人配置し、19年度からは2人に増員した。大学など教育・研究機関との橋渡しや、パートナーとなり得る地元企業の紹介など、きめ細かく対応している。

多くの企業は大都市圏で人材獲得が難しくなったため、地方に目を向け始めている。地方に問われるのは人材獲得のサポート体制だ。セイノー情報サービスの鳥居社長は「他県は合同の就職説明会に大きめのブースを設けてくれる程度。長崎はまるで自社の採用担当者がいるような動きをしてくれる」と明かす。

子会社が長崎市内に研究拠点を開設した京セラの谷本秀夫社長は「地元の企業とのパートナーシップは欠かせない。既に2社と協業が決まった」と話す。

人口減などの課題に着目する企業もある。富士フイルムは人工知能(AI)を活用した社会インフラ点検・診断事業を手掛けており、依田章フェローは「日本一離島を抱える地域で、橋やトンネルについての知見を共有できるのは大きい」と話す。

人材育成へ新学部

こうした動きを支える人材養成の体制も整備されつつある。長崎大学は20年4月に情報系の新学部「情報データ科学部」を開設する。16年度に情報システム学部を設置した長崎県立大学は20年春には卒業生が誕生する。起業家の孫泰蔵氏が率いるスタートアップ支援のミスルトウ(金沢市)は長崎市内に一般社団法人のギウーダを設立し、地域課題解決や地方創生に取り組む人材を育成する計画だ。

長崎市の人口は18年に2376人の転出超過となり、日本で最も社会減が進む地域となった。地域を支えてきた造船業や水産業が衰退し、行政も有効な手を打てなかった。ここに来て雇用や人材育成だけでなく、若者をひき付けられるエンターテインメントの場も生まれるなど追い風が吹き始めた。長崎市の田上富久市長は「100年に1度といえる好機」と強調する。

本土の西端で交通アクセスが悪く、主力産業が苦戦する地域が人口減少の進行に歯止めをかける好機を生かせるのか。同じ問題に悩む地域からも注目されそうだ。

(長崎支局長 古宇田光敏氏)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です