京都国際舞台芸術祭 環境への視線、問い直す

モロッコの振付家・ブシュラ・ウィーズゲン「Corbeaux(鴉)」2019は二条城と平安神宮で上演された

ロッコ振付家・ブシュラ・ウィーズゲン「Corbeaux(鴉)」2019は二条城と平安神宮で上演された

国内外の先鋭的な舞台作品を紹介するKYOTO EXPERIMENT(KEX、京都国際舞台芸術祭)が京都市内で開かれている。10回目の今回は「世界の響き」をテーマに日本のほかモロッコ、イラン、南アフリカ、韓国など非欧米6カ国から11の公式作品がそろった。

昼下がりの二条城、観客たちが円になって立つ空間の中央に黒い衣服、頭に白いスカーフの女性9人が入ってくる。それぞれ別々の方角を向いて位置に着き、しばしの静寂の後、全員が一斉に大きな声を上げた。

地元モロッコマラケシュを拠点に独学で作り上げたメソッドで活動する振付家、ブシュラ・ウィーズゲンによる「Corbeaux(鴉(からす))」はモロッコの儀式や、精神疾患を抱える人の恍惚(こうこつ)としたたたずまいに想を得た作品だ。

9人はその場を動かずに30分以上、頭を上下に振りながら叫び続ける。一定だったリズムは時にバラバラになり、また収束する。観客たちも次第に位置を変えたりパフォーマーに近づいたりと動き出し、作品の一部のようでもある。場が変容していくさまも含め、豊かさをたたえた作品だった。

このほか劇団のチェルフィッチュが美術家の金氏徹平と共同制作した新作「消しゴム山」など意欲的な作品が並んだ。今週末には韓国のサイレン・チョン・ウニョンによる、ジェンダーに関する政治、歴史を問うパフォーマンス作品「変則のファンタジー」などが上演される。

今年度の公式作品は世界的な環境問題などを念頭に、理性や西洋的な近代的価値観とは異なる出自・アプローチという点で緩やかに共通する。「女性」をテーマに据えた昨年に続き、人間の主体とそれを取り巻く世界や環境を従来とは異なる視線で捉えようとする狙いが感じられる。

各公演ともほぼ満員。事務局によると「京阪の観客は6割程度、2割以上は関東圏から」。関西にとどまらず、全国の舞台芸術ファンに完全に定着した。地元アーティストからも「自分の作品が海外ではどのような文脈に置かれるか(という高い基準を)常に意識しながら制作できるのはKEXのおかげ」(京都を拠点とする演出家の村川拓也)といった声が聞かれる。劇場文化育成に大きな役割を果たす芸術祭に成長した。27日まで。(佐藤洋輔)

「商業的な文化と一線」(プログラム担当の橋本氏)

芸術祭立ち上げから10年間、プログラムディレクターを務め、今回で退任する橋本裕介氏に芸術祭の歩みを振り返ってもらった。

――10年間でどのような変化があったか。

「当初は聞いたことのあるアーティスト・作品を見る場、ある意味で消費の場だった。(KEXで上演されるような作品の)鑑賞機会が少なかった当時はその側面も必要だった。今は観客が聞いたことのないアーティスト・作品を知る場になった。商業的・芸能的な力が強い従来の日本の劇場文化とは違うものを築けた」

――海外での認知も高まった。

「アジアでも有数のものになった手応えはある。アーティストにも『EXPERIMENT(実験)』の名の通り、思い切った作品を発表できる場所として認知されている。(世界の舞台芸術シーンの中心となる)欧州のフェスティバル関係者の間でも一定の存在感を確立し、KEX出演後に世界で広く活躍するようになったアジアのアーティストも目立つ」

――今後の課題は。

「欧州では舞台芸術が様々な社会的な問いかけをする政治性のある作品を上演してきた歴史があり、社会がその役割を認めている。その点で日本は遅れている。あいちトリエンナーレの一連の問題など自由な表現の場が明らかに狭まっており、強い危機感を感じている」

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